邦題から掘る①
邦題。
なんだかあんまり、普段使う機会のない言葉ですね。今回はこの邦題についての話です。
昔の洋楽には、多くの曲のタイトルに邦題、つまり日本語版のタイトルがありました。映画には今でも邦題がつけられることは一般的ですが、なぜか音楽に関してはいつのまにか影を潜めた文化であるようで、最近はあまり見かけません。
この邦題というのがクセモノで、単純に直訳のものもあれば、あえて元の意味にひと捻り加えたような題や、はたまた全く違う名前がつけられていることもあるのです。
そのため、邦題と原題の違いに思いを馳せて聴いてみることも、また古い洋楽に触れる楽しみの1つでもあります。
今回はそういった、ちょっと変わった邦題を中心に見ていきたいと思います。
・いとしのレイラ
世界三大ギタリスト、エリック・クラプトンの代表曲です。イントロのタリラリラリラーンは、誰しも一度は聴いたことのあるフレーズですね。
実は、この曲の正式な邦題は「いとしのレイラ」となっております。「いとしの」は一体どこから来たのかと言いたくなりますが、この曲はレイラという女性に対するラブソングなので合ってるといえば合っています。
こんな風に、邦題になると「恋の〜」とか「いとしの〜」 といったフレーズが付け足されるといったことは、昔の洋楽にはしばしば見られるものです。
おそらく歌謡曲が主流だった当時の日本で洋楽を売り出すにあたって、日本人が少しでも親しみを持てるように、まず曲名から歌謡曲に寄せようという工夫がなされたのだと思います。
続いていきます。
・ ダイスをころがせ!
現在も現役にして超大御所のロックンロールバンド、ローリング・ストーンズの曲Tumbling diceです。この邦題が「ダイスをころがせ!」といいます。直訳すると「転がるサイコロ」になるんですが、日本語として収まりが悪いからか、ころがせ!という言い方に変えられています。
このように、語感を重視してか、あえて直訳を避けるパターンもあるようです。
・ビートルズがやって来る!ヤァ!ヤァ!ヤァ!
…インパクトは今回の中でも随一だと思います。ヤァ!って。
これは当時、一世を風靡していたビートルズのドキュメンタリー映画の主題歌として使われた曲で、映画の邦題をそのまま曲名に持ってきたようです。
ちなみに原題はA Hard Day’s Nightで、全然違います。どうしてこうなった。
ヤァ!に関しては、yeahをそのまんまローマ字読みしたのでしょうか。
もっと突っ込んで予想すると、She loves youのyeah,yeah,yeahのイメージじゃないかなぁとも思います。
さすがに原題とかけ離れすぎているからか、2009年のリマスター版では「ハード・デイズ・ナイト」に改められているようです。
逆にいうと40年近くはこのタイトルで通していたわけで、それもすごい話です。
・ロンドンは燃えている!
パンクの元祖の1つ、クラッシュの曲です。
原題がLondon is burningで、邦題は「ロンドンは燃えている!」です。
うん。
訳として何も間違ってないのに、このやりきれない感じは何でしょうか…。
原題が当時からしたらおそらく相当に衝撃的なものなので、そのまんま意味が通じるように訳した方がその衝撃が伝わりやすいとの狙いでしょうか。
後述のピストルズについてもそうですが、ことパンクの邦題に関しては、70年代に興ったパンクという全く新しいムーブメントを日本にどう伝えるかというライターの手探りの努力があったのかもしれないな、と思わされます。
・ 無情の世界
んー、かっこいい。
知ってる邦題の中で一番好きです。
これもローリング・ストーンズの曲ですね。元の曲名と全く違うのに、なぜか違和感がないのが不思議です。原題のyou can't always get what you wantとして聴くのと、無情の世界として聴くのではまたちょっと変わったニュアンスに聴こえるのが面白いところです。
ちなみにこの曲はアルバムlet it bleedのラスト曲です。一曲目から通しで聴いて、最後にこの曲で終わるカタルシスよ。
次が最後です。
これは曲じゃなくてアルバムなのですが、洋楽の邦題といえば、これを外すわけにはいきますまい。というほど有名な一枚です。
パンクロックの先駆け、セックスピストルズのキャリア中唯一のアルバムですね。
原題がNever Mind the Bollocks, Here's the Sex Pistols、潔いほどのガン無視です。
深く知らないのですが、勝手にしやがれという映画があるそうですね。そこから取ってきたのでしょうか。
しかしこの邦題、バーンと聴いて受けた衝撃そのままに命名した感じがとてもナイスです。
ちなみにセックスピストルズはバンド名が直接的すぎるとの理由で、最初期は日本の雑誌ではセクシー・ピストルと書かれていたらしいです。めちゃめちゃ弱そう。
このように、邦題は追いかけるとすごく色々発見があって素敵です。
さらに、このようないい意味でクセのある昔の邦題の雰囲気をリスペクトして、邦題っぽい曲名をつける日本人ミュージシャンもいたりするわけで…。
なんというか、はてしない深みです。