「上を向いて歩こう」のどのへんがロックなのか
おつかれさまです。
新しい環境に移ったかたも、ぼちぼち慣れてくる時期でしょうか。
今回は「上を向いて歩こう」について考えてみたいと思います。
言わずもがな日本のポップスのスタンダード曲であり、また当時ビルボード首位を獲得するという、未だにあり得ないレベルの大ヒットを記録した曲でもあります。
有名曲だけにカバーも多いですが、中でもRCサクセションのバージョンが印象的です。
単純なコピーではなく清志郎の味がよく出たカバーになっていまして、これがまたヒジョーに良い感じです。ヒロトと一緒に歌ってる動画もありました。
で、取り上げたいのは清志郎がこの曲のことを「日本の有名なロックンロール」と言っていたことです。
有名というのは分かります。
なにしろビルボード1位ですから、世界で一番有名な日本語曲と言っても差し支えないくらいでしょう。まして清志郎の世代ならリアルタイムですし、なおさらです。
しかしロックンロールかというと、シャウトがあるわけでもなく、リズムが強調された「ドカドカうるさい」曲でもありません。
それでもこれをロックンロールと呼んだのは、どういう部分を指してのことだったのでしょうか。
サクセションのカバーを見てみましょう。
はい。少なくとも形式は、ブラスにギターにオルガンに、ガッツリとロックンロール仕様にリニューアルされていますね。
ただ、例えば雨上がりの夜空にをメタルカバーしたところで雨上がりの夜空がメタルの曲にはならないように、やっぱりマインド的な部分で「上を向いて歩こう」にロックンロールみを感じられるからこそ清志郎もロックンロール仕様でのカバーをやったのだと思います。
では、この曲のどういう所がロックンロールなのか?という話になってきます。
個人的な考えですが、僕はこれ、曲の根っこにブルースがあるからじゃないかと思います。
ブルースの特色のひとつとして、「メジャーコードの明るいコード進行に、辛いこと、悲しいことをテーマにした歌詞を乗せる」ということが挙げられます。ここでいう辛いこと悲しいことというのは、仕事が大変だとかフラれただとか非常に生活感のある現実的な事柄が多いですね。
平たく言えば「辛い日々を楽しく歌う」というマインドなわけです。
これを踏まえて上を向いて歩こうの歌詞を見てみると、まず曲名にあるように「上を向いて歩く」のは、涙がこぼれないようにするため。この歌の主人公は、泣きながら歩く独りぼっちの人です。それでもって、幸せは空の上に、手の届かないところにあると。そして悲しみは月の影に、星の影に隠れてしまう。
顔を上げて胸を張って歩こう、なんて明るい歌では全くないのですね。
しかし、坂本九の原曲はシャッフルの跳ねるリズムでいかにも楽しそうに歌っています。
こんなに悲しい曲なのに、賑やかな居酒屋でかかっていても全然おかしくないような曲調です。これこそ「悲しいことを楽しく歌う」、ブルースの精神なのではないでしょうか。
そして、ブルースが加速してデッカい音で鳴らされれば、それはロックンロールになっていくというわけでして…。
上を向いて歩こうがロックだというのは、おそらくこういう事なのかなと思います。
あるいはもっと捻くれた見方をすれば、ロックンロールを日本で広めたいがために、海外で流行った日本の曲をロックンロールということにしてしまって「日本のロックンロールは世界でも有名なんだぜ!どうだいスゲーだろ!!」と見得を切った・・・という線もありえるかと思います。
清志郎はそういうしたたかさもある人だと思うので、営業戦略的な面もあったかもですね。
いずれにしても良い曲が歌い継がれるのは喜ばしいことではないでしょうか。