ロックンロールで一夜漬け

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音楽に踏み込む探検日記

リアム・ギャラガー「As You Were」雑感

 

こんばんは。
小春日和って感じでよき日頃ですね。

今回はオアシスの元ボーカリストリアム・ギャラガーのソロ1stアルバムにあたるAs You Wereについて書いていきたいと思います。今年9月に発売されたばかりで、全英アルバムチャートで1位を獲得したヒット作です。

オアシスの解散から8年経ち、さらにリアム自身が一度音楽界から離れた後の初アルバムリリースということでしたが、やはり変わらず根強い人気がありますね。
えてして元売れっ子バンドのミュージシャンのソロデビューというのは、予想外に上手くいかないこともある印象です。しかしことリアム・ギャラガーに関しては、そんなことはなかったようです。
何より、アルバムの出来自体がすごくいいです。オアシスの過去キャリアを抜きにしても評価されて然りの作品だと思います。

ド真ん中のロックンロール・アルバムということで、やはり僕はアナログ盤で買って聴きました。最近はアナログ盤でもダウンロードコードがついていてiTunesにも入れられます。べんり。
今作はオアシスでもビーディ・アイでもない、リアム・ギャラガーのソロ名義ということで、おそらく全キャリア通しての過去作品の中でも一番リアムが作詞作曲に関わったアルバムと思われます。オアシス時代はほとんど曲を自作せず、ノエルが作った曲を歌うのが主な役割であったリアムだけに、ソングライティングという面は今作の見どころのひとつです。
具体的にどの曲のどの部分を作ったのかというのはインタビューなどを読んだ限りでははっきりしませんでしたが、どうやら部分部分を共作したものもあれば、メロディも歌詞も全部リアム自身が手掛けたものもあるようです。
また、オアシス後期において声がガラガラに劣化していると批判されていただけに、今回ボーカルがどうなったのかも大きなポイントでした。

一ヶ月かけて聴き込んだ感想としては、どっちも最高でした。リアムすげぇ。

収録曲は以下のようになっています。
1. Wall Of Glass
2. Bold
3. Greedy Soul
4. Paper Crown
5. For What It’s Worth
6. When I’m In Need
7. You Better Run
8. I Get By
9. Chinatown
10. Come Back To Me
11. Universal Gleam
12. I’ve All I Need

アナログ盤でいうと1〜6までがA面、7〜12がB面ですね。ただインタビューを見る限りリアムはアナログ指向ではないようなので、その辺はあまり気にしなくてよいかもしれません。

順番に見ていきましょう。
詳細なレビューは他所にお譲りして、ここでは聴いていて感じたことをざっくり書いていきたいと思います。よろしくお願いします。


1. Wall Of Glass
リード曲でシングルにもなっていたWall Of Glassが一曲目です。ストレートなギターロックをやるというのが今回のテーマだそうで、それに相応しい王道です。王道といってもリズムはダンスミュージックに近い感じで、コテコテの60年代風ブリティッシュビートとはまた違ったテイストです。
比較的早い時期からYouTubeでMVが公開されていて、「リアム、声全然いい感じじゃん!」と思った覚えがあります。
この曲はたしかプロデューサーとして携わったグレッグ・カースティンが持ってきたそうです。作詞はおそらくリアムで、one directionが歌詞に出てきたりして物議をかもしていました。
ボーカルももちろん、絶妙な音程感のサイケなギターリフや硬質なベースも美味しいです。MVもクール。

 

2.Bold
2曲目にしては落ち着いた曲調で、でも歌詞を見るとやさぐれていて不遜で、なんというかまさにリアム・ギャラガーのイメージ通りな感じです。
この曲に限らず今回かなりアコースティックギターが多用されていて、そこも特徴の一つかと思います。音数は決して多くないのに重厚に聴こえるのは、やはり何と言ってもリアムの声の力が大きいのでしょう。
個人的に間奏後のCメロが気だるいながら迫力あって好きです。

 

3.Greedy Soul
今回オアシス成分が一番強いなぁと思うのがこの曲です。シンプルなコード進行とギターリフで突き進むナンバーで、確かリアム自身一番のお気に入りがこの曲だったはずです。確証はないですが、この曲はほとんどの部分をリアム自身が自作したんじゃないかと思ってます。
歌の入りはSupersonicを彷彿させるようなメロディですね。吐き捨てるような歌い方がよく合います。歌詞も、貪欲な魂と生きていくぜ!という非常にハングリーな世界観です。若い頃成功した45歳の詞じゃない。
ライブ版だとエレキギターで演奏されており、よりヘヴィなアレンジになっているようです。

 

4.Paper Crown
こちらは一転してゆったりしたナンバーで、アコギ一本の弾き語りから段々楽器が増えて盛り上がっていく構成です。語りかけるような歌い方で、歌詞はおとぎ話のような抽象的なもののようです。Greedy Soulもそうですが、こういうシンプルな造りの曲ほどボーカルがよく映えますね。元々の声質に、歳を重ねたシンガー特有の枯れた感じの成分が加わっていてとても格好いいです。

 

5. For What It’s Worth
アルバム発売前にリリックビデオが公開されていた曲ですね。
こちらは何と言っても「俺が間違っていた」と歌う謝罪ソングであるという、ある意味で衝撃の一曲です。過去あれだけ不遜で素行の悪さが取り沙汰されていたリアムが、まさかこんな曲を作って歌うとは。
しかし本人的には最もオアシス的な曲とのことで、確かに曲構成やメロディにはDon't Look Back In Angerを思い出させるような匂いがあります。考えてみればDon't Look Back In Angerにも、歌詞は抽象的ながらも過去を許して受け入れていこうというようなニュアンスがあり、その点でテーマ的にも通じる所があったのかもしれません。
それだけに、ツアーでも合唱曲になりうる魅力を持った曲のように思えます。

また前述の通り謝罪ソングではあるものの、決して自分を貶めるような言葉はなく、またすぐに「人は道を見失うことだってあるさ」と切り替える所まで含めると、やっぱりそこはリアムらしくもあります。

 

6. When I’m In Need

こちらもギター1本から始まるナンバーですね。コーラスがとても綺麗です。シンプルなラブソングという感じで、後半のリバーブが深めに入ったシンセやほんの少し入った逆再生などからサイケな印象も受けます。
歌詞にPurple Hazeなど著名なロックナンバーの名前が入ってくるあたりは、オアシスの頃からよく見られる手法ですね。


7. You Better Run

B面一曲目です。お前なんか全然大したヤツじゃないぜ、逃げろよ、隠れろよ!ってことで、一転攻勢の曲です。For What It’s Worthの後に平然とこういう曲がくる、この切り替えが素敵です。
たしか、若手のロッカーにハッパをかける曲だというインタビューがあったような覚えがあります…。
サビでのGimme ShelterとHelter Skelterを連呼、これもやっぱりストーンズビートルズのリスペクトでしょう。

 

8. I Get By
カウントなしのイントロからいきなり強烈に歪んだギターリフが響く、激しさで言えば今アルバム中でも屈指の曲です。
ドラム・ベースによるリズムもかなり強調されていて、ガッシリ重厚なサウンドです。
俺の心を壊せるのは愛だけだ、という殺し文句は、やっぱりジョンレノンっぽいなあと少し思います。

 

9.Chinatown
事前にビデオが公開されていた曲その3です。ヘヴィなギターロックだったWall of Glassと対照的に、ほとんどアコースティックギターとパーカッションだけで進んでいく素朴な曲です。
いきなり中国…?と思ったのですが、ロンドンに中華街があるそうでそこの話のようですね。
「警察が全てを取り上げていった」「ヨーロッパ人って何だ?」「自由って何だ?」
という、珍しく政治や人種問題に触れるような歌詞が見られます。それもあってフォーキーな雰囲気もします。
ビートルズのHappiness is a Warm Gunの引用もありますね。この曲はジョン作だったと思いますし、やはりジョンレノンの思想が背景にあるのでしょうか。

また、そことは全然関係ないところですが、個人的にはリアムのサ行タ行の発音が歯切れが良くて好きです。


10.Why don't you come back to me
これはまたギターが前面に出たサイケ寄りの曲ですね。イメージとしてHindu Timesとかそのあたりに近いような感じでしょうか。
俺の所に帰ってこいよ!って、まあストレートなラブソングだと考えるのが妥当ですが、ほんの少しでもノエルに向けられてるのかな…?という気もします。
引っ掻き回すようなギターソロがいいですね。

 

11. Universal Gleam
曲名からして名曲感がすげえなぁと思って聴いてみたら、やっぱり凄く良い曲でした。
Universal Gleamは直訳すると宇宙の輝きということで、やはりオアシスのChampagne Supernovaを思わせる曲です。
歌い出しのコード進行はおそらくクリシェですね。これは半音ずつ音が下がっていくという一風変わったもので、有名どころでビートルズのSomethingでも見られる技法です。これは曲の壮大なスケール観を作り出すことに一役買っているように思われます。
この曲はリアムのソロクレジットということで、ソングライターとしての円熟度合いが伺えますね。
また、ゆったりしたツービートにこのクリシェ、深いリバーブのシンセが加わり、そこにスライドギターが入ってくる感じはジョージ・ハリスンも想起させますね。当然、大いに影響を受けているのでしょう。

メロディの良さも個人的にはアルバム随一だと思います。一聴して「バーン!すげえ!!」って感じではなかったのですが、何度も聴いてみるとじっくり良さがしみてくるタイプの曲ではないでしょうか。
Cメロのコーラスがすごく好きです。
誰に向けた曲なのかは分かりませんが、「俺も歳をとった」といいながら不思議と悲壮感はなく、気取らずに前を向くような姿勢がうかがえます。

 

12.I've All I Need
ボーナストラックを除けば、これがアルバムラスト曲にあたります。それもあってか、心なしか感謝の言葉が込められた優しい感じの曲です。ずっと1つのコードが鳴っているところにアルペジオとメロディが乗っかってくる感じがなんとも心地よいです。
Tomorrow Never KnowsやAll Things Must Passという言葉は、またまたビートルズおよびジョージ・ハリスンの曲名からの引用ですね。
いや、ビートルズ好きすぎでは…。
完全に憶測ですが、今回ソロ名義でリアムが初めて作詞作曲を自ら主体で担当してアルバムを作るにあたり、参考にしたのがやはり自身のルーツのビートルズとその後の各メンバーのソロ活動だったのではないかと思います。
それこそ特に、ジョージハリスンのソロアルバムであるAll Things Must Passの影響が色濃いような印象です。12曲目にそのタイトルを織り込んでくるのはネタばらしか、それともクレジットのような意味合いなのか。
…というのは考えすぎでしょうか。。


はい。

一曲ずつ見ていってもマジで粒揃いな印象で、とても楽しんで聴いています。

しかし、リアムがソロでこれだけ良いアルバムが作れることが証明されたいま、オアシスを再結成する可能性がさらに遠のいてしまったような気もします。
つまり、ギャラガー兄弟がそれぞれ一人一人でも十二分にやれる事が分かった以上、わざわざ過去のわだかまりに踏み込んでオアシスを復活させようとはしないんじゃないかと。
オアシスを観たことがない身としては、それはそれで複雑な気分ではあります。しかし、今はそれぞれのソロ作品が今後どうなっていくのか、またライブはどんなものになるのか、そのあたりをもう少し見てみたいという気持ちもありますね。

何より今月は兄貴の新作が控えています。
そちらもそちらで凄まじいことになっていらはようなので、とても楽しみですね。

今回もまたメッチャ長くなってしまいましたが、ここまで読んで下さりありがとうございました。