ロックンロールで一夜漬け

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音楽に踏み込む探検日記

ノエル・ギャラガー「Who Built The Moon ?」雑感

こんばんは。寒いですね。

皮ジャン着てたら風邪をひきました。

今回は、ギャラガー続きということでノエル・ギャラガーの新作アルバム「Who Built The Moon?」について書いていきたいと思います。

本作は、ノエルのソロキャリアで三作目の作品になります。三作目にして方向性を大転換したアルバムということで、発売前から話題になっていました。

じゃあ、何がどう変わったのかというと



こうだったのが


 

こうです。

 

 

いや、どうした。

元々ノエルが昔からずっとやってきたのは、ギターとメロディありきの音楽でした。
アコースティックギターでの弾き語りをバンドサウンドで肉付けしていくようなもので、いわゆる「歌もの」ですね。
古き良きロックンロールに基づいた轟音ギター、シンプルなようで少し変わったコード感、そしてそれに乗っかるメロディの美しさ。それがノエルの音楽の大きな魅力のひとつだったように思います。
それが今回は、ロックンロールどころかギターミュージックとも距離を取り、4つ打ちのダンスビートにシンセサイザーを多用した音作りの曲が中心になっています。
またタイトルからも分かる通り宇宙、愛、生命、そういった壮大なテーマが基になっているようです。
その点で、労働者階級の苦しみや野心が滲み出ていた初期オアシスとは音も思想も全く別物だと思われます。
強いてオアシス時代の曲で例えるならshampagne supernovaに近い雰囲気かもしれません。スケールの大きさはそのまま、さらに新しい領域に手を伸ばしたような印象といいますか・・・。
いずれにしろ「ギターを持って歌を作れば無敵のミュージシャンが、それらを封印して全く新しいアルバムを作った」と。それだけでも、十二分に聴いてみる価値のあるアルバムだと思います。

曲ごとに、大まかに見ていきましょう。

 

1. Fort Knox

一曲目から宇宙に吹っ飛ばされます。
頭から「今回は今までと違うぜ!」と宣言されているような印象です。
最初に公開されたのがこのトラックで、驚いたのを覚えています。
何重にも重ねた音色に、荘厳な女性コーラスが入り、そこに呪文のようなノエルの声が加わってくる…と、のっけから明らかに異色です。
どこかエキゾチックといいますか、東洋の匂いがする曲ですね。MVも曼荼羅のようです。
「目を醒ませ」という漢字が唐突に入ってくるあたり面白いです。
目覚ましの音が入るのはビートルズのA Day In The Lifeにもあった手法です。まさに「目を覚ませ」ということでしょうか。

最初聴いた時「まどマギかな・・・?」「ブレードランナーかな・・・?」と思ったのは内緒です。

 

2.Holy Mountain

リード曲です。1曲目の厳かな雰囲気から一転して、明るいダンスナンバーです。
ギターに管楽器を重ねたような分厚いリフが印象的です。
ずーっと四分で飛び跳ねてられるような感じで、これもやはり今までのノエルにはなかったパターンですね。
ただ、ダンスナンバーではありながら、挟み込まれる歌のメロディがとても良いあたりはやはりノエルです。
踊ろうぜ〜というシンプルな歌詞、コーラスで入ってくるリコーダー、後ろで小気味よく叩かれるオルガンそして手拍子と、非常に明るく楽しい雰囲気です。
ノエル曰く、マンチェスターでテロがあったように苦しいことが多い時代だからこそ、明るい喜びの曲が必要なんだ、と。かっけぇ。

 

3.Keep on Reaching

これもやはりリフが印象的ですね。低音域の、オルガンか何かでしょうか?
同じく4つ打ちではありますが、こっちはより叩きつけるような感じのビートですね。それもあってか、よりシリアスな曲調になっています。ノエルの歌もすごくいいですね。1つの曲の中でも抑揚があり、それが曲全体のダイナミズムにもつながっている印象です。

ホーンやコーラスの入り方など、アクション映画の危険なシーンなんかのBGMにも似合いそうな曲ですね。
なんとなく今回、全体的に映画音楽みたいな感じがします。

 

4.It's a Beautiful World

これはまたかなりダンスミュージック寄りですね。ずっと同じリズムの中、ほぼ展開らしい展開なく、歌とシンセが浮遊しているような曲です。分厚いベース、ドラムの上をキラキラした音が飛び回っていて、宇宙の中にいるような不思議な感覚ですね。
女性ボーカルのフランス語でのモノローグがなんとも意味深です。

ライブ動画がありました。
ほぼこのままのアレンジで演奏してるようですね。ツアーでもそうなるのでしょうか。
こうして見ると、バンドでやってても違和感ない音作りですね。

 

5.She Taught Me How to Fly

前曲に続いて始まるような感じで、やはり宇宙的なエフェクトの音の中をボーカルが泳ぐような曲です。
ただこちらの方はややギターロック寄りで、ストロークスのようなリフが聴かれます。
そのぶんバンドサウンド寄りといいますか、ライブ映えしそうな曲です。

これも演奏動画ありますね。よい。

少し話は逸れますが、今回からいつものGibson ES-355でなくジャズマスターを手に取っているのは、また何か心境の変化なのでしょうか?
オルタナ界隈で愛用されるギターであるので、ノエルが手に取るのはある意味自然ではあります。


6.Be Careful What You Wish For

これCome Togetherじゃね・・・?と思ったら、YouTubeのコメント欄にもCome Togetherってめっちゃ書いてありました。
ベースのリフ、全体のリズムなんかは非常にビートルズのCome Togetherに似ています。
ただ肝心のメロディは全然違うので別物ですね。
また東洋風な女性ボーカルのコーラスや、掛け合いで入ってくる「ヒュッ」みたいな声などもあいまって、なんとも呪術的です。
不安定な感じの音程で細い音のギターソロがなんともいい味出してますね。

なんかやっぱり、どうしてもまどマギの魔女の空間のようなイメージが・・・。


7.Black & White Sunshine

レコードではB面一曲目にあたります。
これはまた今作の中でもかなりギターミュージック寄りで、今までのノエルの流れを汲んだ曲のように思います。音作りはかなりシンプルですね。
こう突飛な音の多い曲ばかりだと、ギターのアルペジオが出てくると妙な安心感がありますね。メロディもとても綺麗です。


8.Interlude (Wednesday Part 1)

2つ目のインストになります。同じインストのFort Knoxと比べると、こちらはアコースティックギターアルペジオに奥行きのあるシンセサウンドが段々と重なってくるような展開で、なんとも妖しい雰囲気を醸し出しています。

 

9.If Love Is the Law

個人的に一番好きなのがこの曲です。
鈴の音と鐘の音にクリーンなギターのバッキングが響く、明るい雰囲気の曲です。讃美歌や祝福といった言葉が合うようなイメージですね。平たくいうとクリスマスソングっぽいというか…。
間奏の盛り上がるところでハーモニカが飛び込んでくるあたり、何とも素朴でいいです。

 

10.The Man Who Built the Moon

前曲から一転して、ふたたび荘厳かつシリアスな曲調になりますね。
Do You Know What I Mean?に近いような、でもずっと多くの種類の音が使われ、より色彩豊かな仕上がりになっています。
タイトルがThe Man Who Built the Moonということで、アルバムタイトル(「月を作ったのは誰だ?」)の回答にあたる曲なのかと思います…が、歌詞の大半は言葉遊びのような抽象的なものです。唯一このThe Man Who Built the Moonが登場する一節があり、おおよそ以下のような感じのようです。

「月を作った男の泊まる部屋を用意しろ」
「彼は疲れ切った馬に乗ってやってきた」
「彼がいなくなった街では、何の音も聞こえない。誰一人、一言も喋らない」
「俺は信じてるんだ、彼は言いたいことを好き放題言う奴で、漆黒と石で造られた心を持っていたんだって」

うーん、なんのこっちゃ・・・。
何か特定のもののメタファーなのか、それとも意味なんてないのか、難しいところです。


11.End Credits(Wednesday Part 2)

8曲目のインストのリプライズですね。
少し重なってくる音が増えていますが、気をつけて聴いていれば分かるくらいの違いのような気もします。
クレジットということで、映画でいうエンドロールが流れる所のBGMのような立ち位置の曲なのでしょうか。


はい。

全体を通してみると、やはり今までのノエルの作品とは大きく異なるアルバムであるように思います。
ギターと歌が主役から一歩下がった立ち位置になり、シンセやベースやパーカッションなど全ての楽器のトータルで1つの世界観が作り上げられているような印象です。
しかし織り込まれているメロディの良さ、そして各所にみられるビートルズへのオマージュなどには、やっぱりノエルらしさがあります。
正直もっとプログレ寄りな難解なものが来るんじゃないかと予想していたんですが、良い意味でずっとポップで聴きやすかったです。
どんな気分の時でも聴けそうな一枚です。

ただ、やはりノエル・ギャラガーの作品であるがゆえに、どうしてもついつい曲の中に「オアシスらしさ」を探しながら聴いてしまうのも事実であって・・・。うむむ、という感じです。

また気になるのはライブで、今までとかなり毛色が違う曲が揃っただけに、セットリストがどうなるのか予想がつきません。
ハイ・フライング・バーズの既存曲や、そしてオアシス時代の曲をどう上手く織り込んでいくのか、あるいはこのWho Built The Moon?に統一した曲目になっていくのか・・・。


兄貴によると日本にも来てくれるそうなので、頑張ってチケット取りたいと思います。